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SuperH T-Engineのボード

山田 浩之(やまだ ひろゆき)
株式会社日立製作所


はじめに

現在日立では、坂村TRONプロジェクトリーダーのご指導のもとスーパー開発環境「T-Engine」を開発中です。この「T-Engine」はTRONSHOW2002で試作版を実際に展示・デモンストレーションを行いました。現在は2002年第3四半期リリースを目標に開発中です。今回は、この2002年第3四半期にリリース予定の「SuperH T-Engine」について概要を紹介します。

SuperHTM注1) RISC Engine

まず、日立では1992年から32ビットのRISCマイコンであるSHマイコンを製品化しています。図1はSHマイコンの採用状況です。2001年の時点で2億4千万個以上を出荷済みです。また、対象になる分野は、多岐にわたっており、4000件以上のデザインウィンを獲得しています。図2にSHマイコンのコア展開を示します。図に示すようにCPUコアもDSP(Digital Signal Processor)やMMU(Memory Management Unit)を内蔵したSH3-DSP(260MIPS)。スーパースカラ方式注2)を採用しFPU(Floating-point Processing Unit)を搭載して430MIPS/240MHzを実現したSH-4等があります(図2)。

図1

図1 SuperH採用状況

図2 SuperH RISC Engineのロードマップ

注1)SuperHTMは、株式会社日立製作所の商標です。SuperHマイコンは、当社独自のアーキテクャによる組込み機器向けの高性能RISCマイコンです。
注2)1クロックで複数の命令を同時に実行することにより、プロセッサを高速に動作させる方式。

従来の評価ボード

図3に製品開発におけるプロトタイプ開発環境の遍移を示します。通常、SHマイコンのような高性能なRISCマイコンを使用してデジタル家電等を開発する場合、これらSHマイコンを高速動作させる基板を設計したり、GUIやネットワークに接続するための各種ソフトウェアを開発する必要があります。これらデジタル家電は構想設計、コスト設計、製品設計のプロト開発を繰り返し行い莫大な開発工数や費用を費やして製品化をします。
従来、これら開発工程上の問題点は、構想設計に6ヶ月以上の期間を要することや、ネットワーク接続などを行うためソフトウェアの開発費率がとても大きいことがあげられます。そこでこのような問題を解決するために、日立ではラピッドプロトタイプ環境を構築するSolutionEngineという評価ボードを開発しました。そしてこの評価ボード上で動作するミドルウェアをさまざまなソフトウェアベンダーから提供し構想設計期間を短縮することを提案してきました。また、評価ボードの回路図、部品表などのハードウェア情報を提供することにより、コスト設計期間を短縮できます。そして構想設計、コスト設計期間を短縮することにより、早期に製品化に着手していただき、システムメーカーの負担軽減を提案してきました。
しかし、このSolutionEngineも従来の評価ボードの延長で価格も数十万円とプロジェクトに参画している多くのハードウェアエンジニアとソフトウェアエンジニアが行ったり、学生等の研究材料として購入するにはあまりにも高価でした。また、大きさもB5サイズと大きく、ちょっと組み込んで評価するにはかなりのギャップがあり、ユーザーによっては不満がありました。
マイクロプロセッサは、高性能であるとともに低消費電力化への対応、ソフトウェア開発では、リアルタイムOS(Operating System)の活用やソフトウェア部品の流通化、ネットワーキング、セキュリティへの対応、また、開発環境としては、コンパクトでより実際の機器に近い環境が求められるようになっており、従来の評価環境での対応は十分と言えない状況にありました。坂村TRONプロジェクトリーダーから提案されていた「T-Engineプロジェクト」はこれらの課題への解決を図るもので、我々は「T-Engine」の構想に基づき、これに対応した試作品の開発に着手しました。

図3 プロトタイプ開発環境の遷移

表1 標準T-Engine CPUボード

SH7727仕様

表1に提示された「標準T-Engine CPUボード」仕様を示します。我々はまず、この仕様を満足するために最適なプロセッサを選択しました。図4はSH3-DSPをコアとしたSH7727の開発コンセプトと図5にSH7727のブロック図を示します。これら図が示すようにSH7727の特長は以下です。

図4 SH7727の開発コンセプト

図5 SH7727ブロック図

・カラーLCDコントローラを内蔵
STN/DSTN/TFT液晶パネルに対応。表示画像データを格納するメモリは、UMA(Unified Memory Access)アーキテクチャを採用して、システムメモリと共有し、例えば、640×480ドットの画面サイズで、最大65,536色の表示が可能。さらに、2.4Kバイトのラインメモリバッファを内蔵しており、大容量データを高速に描画することが可能。
・USB規格Rev.1.1準拠のUSBホストを搭載
USBホストは、アイソクロナス、インタラプト、コントロール、バルク転送をサポートし、最大で12Mbps(bit per second)のデータ転送速度が可能。また、OpenHCI(Open Host Controller Interface)仕様に準拠しているため、デバイスドライバソフトウェアは、PCのドライバソフトウェアなどからの移植が容易。
・MMUを内蔵した高性能32ビットCPU「SH3-DSP」コアにより高速処理を実現
動作周波数160MHzで、CPUが208MIPS、DSPが320MOPSの高い処理性能により、MP3注3)、ADPCM注4)、JPEG注5)等の音声や画像のミドルウェアの高速処理を実現でき、インターネット電話などで使用されるVoIPのプロトコル処理も可能。
ほかにも、AFE(Analog Front End)のICと接続できるインタフェースや音楽再生用途としてAudio CODEC ICに直接接続可能なインタフェースなどの特徴的な機能に加え、DMAC(Direct Memory Access Controller)のメモリ管理機能、アナログ信号処理用のA/DおよびD/A変換器、シンクロナスDRAM等の各種メモリインタフェース、また、eTRONとのインタフェースを実現するICカードインターフェースを内蔵しています。
これらの機能により、T-Engine仕様として提示された機能をほとんど1チップで実現することが可能です。

表2 SH7727 T-Engine(MS7727CP01)仕様

注3)MPEG-1 Audio layer 3の略。MPEGは、Moving Picture Experts Groupの略。MPEGは、ビデオなど音声を含むカラー動画像の圧縮・伸長方式の国際標準規格で、MP3は、MPEGの音声に関する圧縮・伸長の規格。
注4)Adaptive Differential Pulse Code Modulationの略で、差分を利用した音声の代表的なデータ圧縮・伸長方式。
注5)Joint Photographic Experts Groupの略で、カラー静止画像の圧縮・伸長方式の国際標準規格。

SH7727 T-Engine仕様

図6 MS7727CP01ハードウェア構成

図7 MS7727CP01ハードウェア構成 〜拡張スロット信号仕様〜

図8 T-Engine拡張コネクタ(140ピン)外観形状

図9 T-Engineコネクタキーイング例

今回開発したSH7727 T-Engine(MS7727CP01)の仕様概要を表2に、ハードウェア構成を図6に示します。図6に示すように、CPU性能を十分引き出すために、SH7727とSDRAMのインタフェースは32ビットBusで接続し、メモリアクセスの高速転送を実現しています。T-Engine仕様のシリアルインタフェース、USBホストインタフェース、eTRONインタフェース、音声コーデックインタフェース等はSH7727内蔵の機能をそのまま使用し実現しています。LCDインタフェースに関しても、SH7727内蔵のLCDコントローラの出力をコネクタ経由で出しています。これにより、携帯電話用LCD、PDA用LCD、電子ブック用LCD等の各種用途に合わせたLCDモジュールを接続することが可能です。また、今回バッテリー駆動の低消費電力機能を実現するために、サブコントロールマイコンとして日立H8マイコン(H8/3048F-ONE)を搭載しましたこのH8マイコンではRTC(リアルタイムクロック機能)、タッチパネル座標位置読取り機能、キースイッチ入力機能、T-Engineシステム電源(3.3V、5V)ON/OFF制御機能、バッテリー残量監視、デバック用LED点灯/消灯機能をSH7727のシリアルインタフェース経由でアクセスすることにより制御可能です。これらの機能はH8マイコン内蔵のFlashROMにBIOSとして書き込まれており、場合によってはこのBIOSをオンボードで書き換えることが可能になってます。
T-Engineの特長として各種ネットワークや周辺LSIを接続可能にするために、拡張バスインタフェースコネクタを搭載しています。この仕様を図7に示します。図7に示すように本拡張バスインタフェースコネクタにはSH7727のデータバス、アドレスバス、RD/WE等の制御信号がバスバッファを介して出力しています。また、さらに通常のシリアルインタフェース信号も拡張バスに出力していますので、バスインタフェースを持っていないようなBluetoothモジュール、微弱無線LSI等も接続して評価することが可能です。
T-Engine拡張コネクタ外観を図8に示します。このT-Engine拡張コネクタはT-Engineプロジェクトで規定した専用コネクタで、コネクタメーカーである京セラエルコ株式会社で製造されます。この拡張コネクタの特長は図9に示すように、コネクタの両端に誤挿入キーイングが付いており、各社のT-Engineボードと拡張ボードを各々間違って挿入しないようになります。これは、各社のマイコンが組込み用途向けのため、CPUバスを直接出しており信号の電気的仕様が違うため、誤挿入でT-Engineボードや拡張ボードを壊さないためです。また、このキーイングはORも取れるような構成になっていますので、各社のT-Engineボードに接続可能な拡張ボードも開発することが可能です。

注6)Hitachi-User Debug Interface, Advanced User Debugger:従来エミュレータに搭載していたデバッグ回路の一部。この機能を内蔵することでシステム評価時にマイコン本来の動作周波数でのリアルタイムエミュレーションが可能。

T-Engine拡張ボード

日立では第一弾として下記のT-Engine拡張ボードを製品化します。

●CompactPCMCIA拡張ボード(図10)

T-EngineにはPCMCIAインタフェースが標準で搭載され、各種ネットワークカードやメモリカードを接続することが可能です。さらに、この拡張ボードを接続すると図11に示すようにPCMCIAに位置検出用のGPS PCMCIAカードを、Compact PCMCIAに携帯通信用のCompact PCMCIAカードを接続してGPSと携帯通信網を利用したシステムを評価することが可能になります。

●LAN拡張ボード(図12)

このLAN拡張ボードは10/100BASE-T Ethernetコントローラを搭載しました。このLAN拡張ボードを接続すると、図13に示すようにLAN経由でT-Engineを接続しブラウザやメールの機能を実現したり、ネットワーク経由でユーザープログラムをダウンロードし高速なデバック環境を実現することが可能です。

●デバックボード

図14に示すようにT-Engineとデバックボードを組み合わせて日立E10Aエミュレータを接続することができます。これにより、SH7727のオンチップデバッグ機能注6)を使用して高速動作でのリアルタイムエミュレーションが可能です。
また、今後は高性能なグラフィック機能を実現しPC用モニタ接続可能なグラフィック拡張ボードやISO14443非接触ICカードのR/W機能を実現する非接触IC R/W拡張ボード、HDD等を搭載しPCデスクトップ環境を実現するデスクトップ環境ベースボード等さまざまな拡張ボードを開発していく予定です。

図10 MS7727CP01ドータボード 〜CFカードドータボード(MSCPCMCIAEX01)〜

図11 MS7727CP01ドータボード 〜CFカードドータボード使用例〜

図12 MS7727CP01ドータボード 〜LANドータボード(MS91C111EX01)〜

図13 MS7727CP01ドータボード 〜LANドータボード使用例〜

UltraFileとJPEGミドルの連携により、T-Engine上での高パフォーマンス表示を実現。
タッチパネルでファイル選択すると、ATAメモリカード内のJPEGファイルを日立超LSIシステムズ製ファイルシステム(UltraFile)で読み出し、JPEGミドルウェアでデコードしてLCDに表示。

図14 E10AエミュレータとT-Engineの出力

図15 T-Engine JPEGミドルウェア

T-Engine用ミドルウェア

日立グループではT-Engine上に各種ミドルウェアをを搭載し提供していく予定です。例えば、株式会社日立超LSIシステムからはJPEGミドルウェア(図15)。日立米沢電子株式会社からは組込みTCP/IPミドルウェア(図16)。日立エンジニアリング株式会社からはUSBプロトコルスタック(図17)。日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社からはGUI構築環境であるPowerParts(図18)。これらのミドルウェアはTRONSHOW2002で既にデモ展示を致しました。
今後は、画像系のMPEG-4動画伸張、3次元グラフィック。音声系の音声認識/合成。データ通信系のG.729A音声コーデックやサウンド系のMP3デコーダ、AACデコーダ等のさまざまなミドルウェアを提供していく予定です。

HI.CommunicationEngine(HTTPd)を使用し、ユーザー独自のサーバを用意に作成可能
T-Engine上で動作するT-Kernelに、HI.CommunicationEngineおよびHTTPサーバを構築し、Ethernet接続したPCからブラウザを操作し、デモコンテンツおよびCGIにてデモ画面をVGAモニタに表示

図16 組込み用TCP/IP HI.Communication Engine(HTTPd)

USBプロトコルスタックを使用した高速なデータ通信を実現
T-Engine上でのOS(T-Kernel)にUSBプロトコルスタックのHostスタックを組み込み、HUB経由で接続されたDVCのJPEG画像を取り込み表示

図17 組込み用USBプロトコルスタック

PowerPartsを用いたPIM(Personal Information Manager)
・機器組込み向けGUIフレームワークであるPowerPartsを用いて、T-Engine上にGUIを構築
・ OSは、T-Kernelを採用、その他タッチパネルからの入力インタフェースに対応

図18 組込み用GUIフレームワーク「PowerParts 2.1」

図19 SH3-DSPの開発ロードマップ

T-Engineの今後の展開

坂村TRONプロジェクトリーダーの提唱するユビキタスコンピューティングを目指したプロセッサを日立ではSH3-DSPを中心に展開していきます。図19はSH3-DSPの開発ロードマップです。SH3-DSPコアは、0.18μm版が開発終了しており、0.2mA/MHzの低消費電力を実現しています。このコアを使い、マルチメディア対応の次世代携帯電話向けに適したアプリケーションプロセッサ(低消費電力機能、画像処理アクセラレータなどを内蔵)SH-Mobile等の製品化を進めています。さらに、0.13μmのSH3-DSPコアを用いた製品を計画しています。
日立ではこれら、プロセッサの展開に同期してT-Engineを開発していきます。また、H8マイコンをベースとしてpT-Engineの開発も検討していく予定です。

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